グループホームで夜勤をしていた時の話
介護保険のグループホームは認知症のある9人の利用者が、ひとつ屋根の下で共同生活をします。
国で定められた職員の配置人数が多いので、手厚い介護が受けられます。
居室は個室となっており、使い慣れた家具などを持ち込むことができます。
夜中に徘徊する人もいれば、トイレ以外はぐっすり寝ている人もいます。
当時の夜勤は宿直扱いだったので、なにもなければ夜勤者は寝ていていいことになっていました。
さて、もうすぐ夜が明ける朝方5時ころのことです。
利用者さんの「アワワッ、アワワッ」という声が聞こえてきて、宿直室からホールの方へ行ってみると、いつもおとなしいとみ子さん(仮名)、91歳が、トイレの前で立ち尽くし、顔もこわばっています。
「なにごとかしら~?」とのんきに話しかけたところ、トイレからどんどん水が溢れてくるではないですか。
あっという間にホール全体は水浸しです。
騒いでいる声を聞いて、他の利用者さんたちも起きてきてしまいました。
「利用者さんたちがすべってケガでもしたら大変。」
そう思った私は、大きな声で、
「部屋に入っていてー!」「出てこないでー!」
と叫び、自分の部屋にいるようにうながしました。
いつも穏やかに接している私のすごい形相を見た利用者さん達。
これはただ事ではないと察し、全員が部屋に戻りました。
とみ子さんはというと、まだトイレの前で固まっています。
固まっているとみ子さんを自分の部屋まで連れて行き、さてどうしたものか。
ゆっくり考えている暇はありません。
その間にもホールにはどんどん水が流れてきています。
どうしたらいいの?
便器の中を見ると、どうやら尿取りパットがつまっているようです。
トイレ掃除用のブラシで取ろうと試みましたが、取れません。
それどころか、詰まった尿取りパットは奥へ奥へと入っていくようです。
「う~ん・・・」
手をつっこんで取りました。(´;ω;`)ウッ…
生まれて初めて便器の中に素手で手を入れました。( ノД`)シクシク…
やっとあふれ出る水は止まりましたが、水浸しのホールの拭き掃除をしなくてはなりません。
床が乾くまでは、利用者さんたちには部屋から出てきてほしくないな~
と、思っていたら認知症があっても空気が読めるんです。
認知症があるからといって、何も分からないわけではないのですよ。
9人中、とっても元気な1人は床を拭くのを手伝ってくださいました。
あとの8人は、7時の早番の職員が来て、床を拭き終わるまで部屋で待っていてくれたのです。
「みんな、ありがとう。」
遅めの朝食をみんなと食べているころには、笑い話となっていました。
自宅で生活している人も、トイレの中に尿取りパットを入れてつまってしまうこともあるでしょう。
今回学んだことは、つまった物をスポッと取ってくれる棒を買っておくことでした。